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津家庭裁判所 昭和52年(少)81号 決定 1977年5月23日

少年 I・Y(昭三五・三・一六生)

主文

1  少年を満二〇歳に達する(昭和五五年三月一五日)迄中等少年院に戻して収容する。

2  暴行、窃盗保護事件については少年を保護処分に付さない。

理由

1  戻し収容申請の理由

中部地方更生保護委員会から再度少年を少年院に戻し収容すべき旨の決定の申請がなされ、この理由は別紙一記載のとおりである。

2  当裁判所の判断

そこで、審案するに少年の陳述ならびに本件関係記録によれば次のような事実が認められる。

(1)  少年は、昭和五一年四月一日津家庭裁判所において窃盗、道路交通法違反保護事件により中等少年院送致の決定を受けて豊ケ岡農工学院に収容され、その後昭和五一年七月三〇日更生保護委員会の許可決定により、同少年院を仮退院し、爾来津保護観察所の保護観察下に入つた。

(2)  仮退院に際して同委員会から法定遵守事項の外に別紙二記載のとおり特別遵守事項が決められその遵守を誓約した。

三 しかるに少年は、

(1)  父と共に漁船員として稼動する筈のところ、同年八月中旬ころ、出港直前姿を晦ませ乗船せず、その後「○○解体」、「○○板金」等に勤務したがいずれも数日と続かず、翌年一月二六日、一旦父と共に漁船に乗組んだものの、三日後佐世保港寄港の際父にも無断で下船帰宅して了い、その間ないしその後も屡々家を出て友人宅を泊り歩くなど、殆ど無為徒食の生活を送り、保護観察官に対しても、「働らかないことは悪いとは思わない」と広言してはばからない。

(2)  仮退院後間もなく知り合つたA子(当時中学三年生)や、本年二月頃知り合つたB子(当時中学三年生)と何れも肉体関係を結び、自宅に同居し、結局両名とも児童相談所に収容されたが、右A子は妊娠中絶の手術を余儀なくされた。

(3)  昭和五一年八月二九日友人の自動二輪車(七五〇CC)を無免許運転中別紙三の業務上過失傷害、道路交通法違反保護事件を敢行し同年一二月二一日津家庭裁判所において検察官送致の決定を受け、同五二年三月一一日鳥羽簡易裁判所において罰金一二万円の略式命令に処せられ(同月三〇日確定、未納)た外、同五一年一一月二六日頃にも津市内において知人より直結してある自動二輪車(七五〇CC)を貰い受け、連日の如く運転し、一二月上旬ころ別紙五(1)記載の如く自動車よりガソリンを抜取りこれを右自動二輪車に給油使用し、最近においても、依然右自動二輪車の無免許運転をつづけており、地元民より後記暴行事件と併せ、島羽警察署に対し善処方要望書が提出されるに至つている。

(4)  昭和五一年一〇月ころ、○○金物店よりボンド一缶を買い求め自宅自室において友人と共に又は単独にてボンド、シンナーを吸引し、一時中止していたものの、本年二月頃より再び屡々シンナーを吸引している。

(5)  昭和五二年二月一〇日及び同年三月四日、別紙四記載の少年に対する暴行事件を敢行した。

四 以上の如く、法定遵守事項ないしは特別遵守事項に従わないのみか、両親はもとより、保護司ないしは保護観察官の累次に亘る説得にも全く応じようとせず、勝手気侭な生活をつづけている。

よつて上記の如く同委員会から当裁判所に対し戻し収容の申請があつたので、審理のため身柄確保の必要上、本年五月四日当裁判所において観護措置決定をなしたが、その執行時隙をみて裁判所より逃走し、友人宅を泊り歩き、その間別紙五(2)記載の窃盗事件を敢行した。

五 以上の諸事情に、津少年鑑別所作成の鑑別結果通知書に示されている少年の知能、性格特性等に、少年調査記録上の問題点を綜合して考えるに、少年の仮退院後の態度は全く無軌道、無反省の一語に尽き、従前の少年院における短期処遇の効果はみられず、いわんや今後の在宅保護による更生は全く期待しえず、更にこれを少年院に戻し収容し、長期間に亘り、厳格規律ある生活に服させることにより、主として行動学習により新しい行動習慣を徐々に形成せしめ、積極的な勤労意欲と規律ある生活態度を培い、以て自己統制力と社会適応性を涵養することが緊要とされるところ、少年の年齢、及び同人に若干の反省がみられることに鑑み戻し収容期間を満二〇歳に達するまでとし犯罪者予防更生法第四三条第一項に則り主文第一項のとおり決定する。

なお、本件暴行、窃盗保護事件は戻し収容申請事件と併合審理し、前記の如くすでに後者の理由にもなつているところであるから、もはや保護処分の必要性は認められないので主文第二項のとおり決定する。

(裁判官 川田嗣郎)

別紙一

少年は、中部地方更生保護委員会第二部の決定により昭和五一年七月三〇日犯罪者予防更生法第三四条第二項規定の(一般)遵守事項並びに、中部地方更生保護委員会第二部の定めた下記の特別遵守事項

一 昭和五一年七月三〇日までに三重県志摩郡○○町○○×××-×I・S子のもとに帰住すること。

二 昭和五一年七月三〇日までに津保護観察所に出頭すること。

三 家出外泊や不良交友をやめること。

四 飲酒遊興をしないこと。

五 無免許運転などしないこと。

六 保護司や父母になんでも相談し勝手なことをしないこと。

を遵守することを誓約して豊ケ岡農工学院を仮退院し、以来津保護観察所の保護観察下に入つたものである。昭和五二年三月一二日同保護観察所長から戻し収容の申出があつたので、当委員会第二部において戻し収容申請をするため、これを審理するに、保護観察の経過及び成績の推移に記載のとおり、主任官担当保護司及び関係者が緊密な連絡のもとに保護者の協力を得て更生の措置を講じてきたが、少年は、

<1> 少年院を仮退院後、父と共に漁船員として働く予定であつたが、乗船日に姿を晦まして就労せず、昭和五一年九月九日頃から自動車解体工として一週間。同一一月二〇日から板金工として三日余、本年一月二六日から船員として三日間働いたが、以後就労意欲なく徒遊生活を続けている。(一般遵守事項一号後段違反)

<2> 昭和五二年一月六日午前中父の意見にも従わず、我侭から家出、同月一七日迄の間友人の家を転々と無断外泊をした。(特別遵守事項第三号前段違反)

<3> 少年院仮退院後、しばらくして自動二輪車(七五〇CC)を無免許運転するようになり、昭和五一年八月二九日午後四時頃、居住地町内の○○地内を自動二輪車(七五〇CC)を無免許運転中自転車で通行中の児童をはねて傷害を与えその場を逃げた事件を惹起した。(同事件は昭和五一年一二月二一日津地方裁判所において検察官送致の処分を受けた。)主任官の呼出指導にもかかわらず以後も再三に亘り自動二輪車並びに普通自動車を無免許運転しているものである。(一般遵守事項第二号特別遵守事項五号違反)

<4> 少年院仮退院後間もなく以前交際していた○鈴○子と再会し性関係をもち、昭和五一年八月中旬頃から中学三年生A子と交際し、同女に妊娠中絶手術をさせ、その結果、同女の父が自殺未遂を惹起し、入院療養するなどの迷惑をかけ、更に中学三年生B子と交際を始め、性関係をもつなど不純異性交遊を続け自己及び他人の徳性を害しているものである。なお、同上2名の中学生を各々自宅に宿泊させてかくまい同女らを捜しに来た関係者が連れ戻すことを妨げている。(一般遵守事項二号違反)

<5> 昭和五一年一〇月中旬○○金物店からボンド一罐を買い求め、自室に友達を集めてともに、または単独でボンドやシンナーを吸引し、更に本年二月初旬頃、妹に○○板金へシンナーを買いにやらせるなどして吸引を続けている。(一般遵守事項二号違反)

<6> 担当保護司や父母の指導監督は素より主任官による再三の呼出指導にも従わず自由気侭な生活を続けている。(特別遵守事項第六号違反)

上記の行為は、津保護観察所長からの戻し収容申出書、同所保護観察官増田直作成にかかる少年に対する質問調書、同関係人に対する質問調書、保護観察事件記録等によつて明らかであり、少年の行為はいずれも仮退院の際に誓約した一般遵守事項ならびに特別遵守事項にそれぞれ違背するものである。

本人は、幼時から父が遠洋漁業船に乗り留守がちであり、殆んど母一人で甘やかされ我侭に成育した。小学校高学年から学習意欲をなくし、中学二年生頃から怠学、授業妨害をし、原付二輪車の無免許運転が始まるなど問題行動が頻発するなかで中学を卒業した。中学卒業後父が乗船する漁船に僅か働いたのみで就労せず、夜間盛り場などの徘徊、飲酒、無免許運転を繰り返すうち、昭和五一年四月一日津家庭裁判所において窃盗事件、道路交通法違反で少年院へ送致されたものである。

豊ケ岡農工学院を仮退院後主任官、担当者は少年や保護者との密接な接触のもとに少年が遵守事項を自ら遵守し、社会生活への適応性を高めるように援助、指導調整を続けてきたものであるがその意に反した行動を繰り返している。

少年の行動を少年院入院前と比較考察を加えるに、勤労観は“働かないことは悪いとは思いません”に代表されている如く全く進歩がみられず、不純異性交遊、無免許運転はその度を増しシンナーボンド吸引は新しく学習された非行であり、これら無軌道な生活態度はその非行性を一層増長させているものと思料される。

以上のように本人の行動の基底にあるものは、自己統制力を欠いた我侭放縦な性格負因するもので、これらの矯正が必要急務であることが指摘できる。

一方保護者の保護能力やその家庭環境は本人の生活行動を見守り指導することが期待できない現状にある。

このような少年の思考や行動傾向ならびに家庭環境等は短期間に改善されるとは考えられずこのまま推移すれば少年をして再非行におちいらせる危険性が予測される。

以上の点を総合判断するに現状では、社会内処遇における援助指導の限界を超えたものであり、矯正施設に再度転換して少年の自覚を促し矯正教育を授けることが必要と考える。

別紙二

特別遵守事項(別紙一記載の特別遵守事項に同じ)

別紙三

一 犯罪事実

少年I・Yは、

(1) 自動車運転の業務に従事するものであるが昭和五一年八月二九日午後四時〇分頃、自動二輪車を運転し三重県志摩郡○○町○○××××番地先道路を○○町○○方面から○○方面に向い時速約一〇kmで進行中下記過失欄第一号掲記の業務上の過失によりおりから自車左側方付近を右折中の○井○治(当一〇年)運転の自転車に自車を衝突転倒させ同人に加療約一週間を要する左肘、

左膝擦過挫創の傷害を負わせた。

<1> 同所交差点を右折するに際し、前方左右を注視し進路の安全を確認して進行すべき注意義務があるのに右斜前を歩行中の友人に気を奪われ被害者に気がつかなかつた過失

<2> 公安委員会の運転免許を受けないで前記(一)記載の日時場所において前記自動二輪車を運転した

<3> 前同日、同所において前記(1)記載の交通事故をひきおこし、○井○治に前記傷害を負わせたのに同人の救護をせず、かつ事故発生の日時場所など法令に定められた事項を直ちに最寄りの警察署の警察官に報告しなかつたものである。

別紙四

昭和五二年(少)第四八三号暴行保護事件

少年I・Yは、同C、同Dと共謀のうえ、

(1) 昭和五二年二月一〇日午後一時ごろ、三重県志摩郡○○町○○、○○中学校裏門の坂の下において、志摩郡○○町○○×××○武(当一五歳)の兄が「I・Yの連れである者がライターを盗んだことを警察に言つた」ということに腹を立て、右足で右○武の腹部を数回足蹴等

(2) 昭和五二年三月四日午後四時頃、前同所において、前記○武が、○○中学校で少年Dのことを○○中学校の先生にうそをいつたことに腹を立て、手拳で同人の腹部を数回さらに足蹴等し暴行を加えたものである。

別紙五

昭和五二年(少)第七〇一号窃盗保護事件

少年I・Yは、

(1) 昭和五一年一二月上旬ころの午前二時ころ、三重県志摩郡○○町○○地内の通称、○○稲荷前広場に駐車してあつた、志摩郡○○町○○×××番地、○井○紀(四四歳)所有の軽四輪貨物自動車(登録番号××-×-○××××号、白色、三菱ミニカトラック)のガソリンタンク内から、ガソリン約一〇リットル(時価一、一五〇円位相当)を窃取

(2) 昭和五二年五月七日午後八時三〇分ごろ、志摩郡○○町○○××××番地、食料品販売業、○本○ず(六三歳)方店舗において、同人所有のバナナ一房他一点(合計時価五〇〇円位相当)を窃取

したものである。

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